体外受精の流れ

公開日:2023.02.24更新日:2023.07.14

お話を伺った先生

蔵本 武志 先生

医療法人
蔵本ウイメンズクリニック
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日本産科婦人科学会から発表された2020年の体外受精に関するデータによると、1年間で6万381人の赤ちゃんが体外受精によって誕生しました。これは全体の出生数からみると、13.9人に1人の割合です。(*1)

不妊治療の中でも、「体外受精」と聞くと、特殊なイメージを持つかもしれませんが、その過程を知ると、妊娠における「受精」という過程のみを女性の体の外で行うだけで、あとはほとんど自然妊娠と同じ流れによる出生です。 

今回はその体外受精の基本知識や、治療の流れをわかりやすく解説していきます。

体外受精の歴史

世界で初めて体外受精が成功し、健康な女児が誕生したのは1978年のことでした。イギリスにおいて卵管性不妊症により9年間の不妊に悩んでいた夫婦に対し、産婦人科医であるパトリック・ステプトー医学博士と生物学者ロバート・G・エドワーズ博士のチームが体外受精(胚移植法)技術を用い、実現したものです。

1978年当時の体外受精技術は、女性原因による不妊の治療を目的としており、現代の体外受精の基礎をなした偉大な一歩でした。

のちに、体外受精生みの親の一人であるイギリス人生物学者ロバート・G・エドワーズ氏は2010年度のノーベル医学生理学賞を受賞しています。
その後、体外受精技術の進歩により、男性原因による不妊の治療も対応可能となりました。それが顕微授精と呼ばれる手法です。1992年にベルギーで初めて成功しています。

日本における体外受精の歴史を見ると、世界で初めての体外受精成功から5年後、1983年に東北大学のチームが初めて胚移植法の体外受精による妊娠・出産を成功させています。以来、今日まで不妊治療は年々進化と発展を遂げ、体外受精によって多くの赤ちゃんが誕生しました。冒頭にもある通り、今や日本では約13.9人に1人が体外受精で生まれている時代です。世界でもトップクラスの体外受精国といっても過言ではありません。

体外受精の治療内容

体外受精では自然な妊娠における、排卵から受精、胚発生、卵管による胚の子宮への移送までのプロセスをショートカットすることができます。具体的にはおおまかに以下5つの関門をスキップすることができます。

  1. 排卵
  2. 排卵された卵子が卵管采で卵子にピックアップされる
  3. 卵管にて精子と卵子が出会う
  4. 卵管内で精子が卵子に潜り込んで受精が成立する
  5. 受精卵(胚)が細胞分裂しながら卵管により子宮へ移送される

上述の過程のいずれかに問題がある場合に妊娠は生じませんが、体外受精は精子を卵子に掛け合わせるところからスタートすることができます。日本産婦人科学会のデータによれば、体外受精全体の妊娠成功率は約20~30%で推移しています。(*1) 35歳以下に絞ると、さらにその成功率は高くなります。

体外受精のおおまかな治療内容は、女性側で腟から卵巣内の卵胞へ針を刺して採取した卵子と、男性側で採取した精液を用いて卵子と精子を体の外で受精させ、受精卵を適切なタイミングで女性の子宮に戻すというものです。

体外受精全般を指して生殖補助医療(ART)と呼びますが、受精方法の違いによってさらに体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)に分かれます。

体外受精・胚移植(IVF-ET)

採取した卵子を培養液の入ったシャーレの中心に置き、その周りに調整した精子を泳がせて自然に受精するのを待ちます。採卵数が多い、精液所見に問題がない場合に選択されることが多い手法です。

無事に受精卵(胚)となったあと、数日間培養して子宮内に戻し、そのあとは自然妊娠と同様に子宮腔内で生育することを待ちます。

顕微授精(ICSI)

形態や運動性の良好な精子を選択し、顕微鏡下で確認を行いながらその精子を細いガラス管を用いて直接卵子に注入し受精させます。

たとえば精子の数が少ない場合や、運動性に問題があり、体外受精では卵子に入り込めないなどの男性因子がある場合にはこの顕微授精が推奨されます。精子を子宮、または卵子の中に人工的に入れることを「授精」、精子と卵子が出会って結合することを「受精」とするため、漢字の表記が異なります。

顕微授精においても、無事に受精卵を得た場合には胚移植によって受精卵を子宮腔内に戻します。

これらの体外受精は一般的に高額な治療費がかかるイメージがあるかと思いますが、2022年の4月より保険適用が認められ、そのハードルはかなり緩和されています。

体外受精を検討するケース

体外受精に進む具体的な症例は以下の通りです。

①卵管性不妊症

両側卵管閉塞、腹腔内癒着(卵管周囲癒着)など一般不妊治療では妊娠が困難である場合

②男性不妊症

精子濃度が正常値以下の高度乏精子症や、精子の運動性が不良である精子無力症、無精子症などの場合

③原因不明不妊(機能性不妊)

一般不妊治療におけるタイミング療法や排卵誘発、人工授精法を複数周期おこなうも妊娠に至らないなど原因が特定できない難治性不妊などの場合

④不妊治療を急ぐ必要がある場合

主に年齢による判断です。体外受精の成功率は、35歳以上で低下し、40歳以上では顕著に低下すると言われています。排卵誘発などによって卵が採取できれば、女性の年齢に関わらず体外受精を行うことはできますが、45歳を超えると妊娠・出産の可能性は極めて難しくなります。

また、保険適用の対象となるのは治療開始時点で43歳未満であることが条件です。

体外受精の流れ

それでは、実際に体外受精を行う際の流れを詳しく見ていきましょう。

①月経周期の開始

治療の開始です。自然排卵を防ぐため、GnRHアゴニスト製剤、合成黄体ホルモン剤、GnRHアゴニスト鼻薬等を使って体内の排卵に関するLHホルモン分泌を抑制します。採卵の二日前まで続けます。

②卵巣刺激(月経周期3日目~)

効率よく卵子を採取するために、月経3日目頃より排卵誘発剤である内服薬やホルモン剤の注射を用いて卵子の入った袋である卵胞を複数個育てます。月経周期7日目~10日目から超音波で卵胞の大きさを計測し、ホルモン剤を調節していきます。

③採卵(月経周期12~18日目頃)

卵巣内の卵胞から成熟した卵子を取り出します。麻酔下で経腟超音波(エコー)を使い、卵胞を確認しながら卵胞内に採卵針を刺して卵胞液ごと卵子を吸引するのが一般的です。

④採精

当日採取した精子を調整、選別し運動良好精子を回収します。

⑤受精

体外受精(IVF)の場合⇒採卵した卵子に濃度を調節した運動精子をふりかけて受精するのを待ちます。

顕微授精(ICSI)の場合⇒顕微鏡で確認しながら、細い針を用いて1個の精子を卵子の中に注入します。

⑥胚培養

受精が確認された受精卵を「胚」と呼びます。体内と同じ環境の培養器内で、さらに数日間、胚の培養を続けます。

⑦胚移植

受精卵が細胞分裂をし、4~8細胞になった分割期胚を子宮に戻す方法、胚盤胞と呼ばれる段階まで発育を続けてから子宮に戻す方法があります。

また、この胚移植には、採卵した周期の新鮮胚(分割期胚または胚盤胞)を使用する場合と凍結融解した胚(分割期胚または胚盤胞)を使用するパターンがあります。

⑧黄体補充

胚が着床しやすいように子宮内膜の環境を整えるため、黄体ホルモン剤を補充します。


凍結胚を融解して子宮内に胚移植する周期では、ホルモン補充といい、卵胞ホルモン剤を使用して子宮内膜を厚くした後、黄体ホルモン剤(膣剤や内服薬)を併用します。

⑨妊娠の確認

初期胚の場合、胚移植から約2週間後、胚盤胞の場合約1~2週間後に妊娠判定を行います。陽性反応が出たのち、その後の妊娠の経過を確認します。

妊娠8~9週目で成長に問題がないことを確認できれば、一旦不妊治療の過程は卒業となるのが一般的です。

体外受精の補助的な治療

PFC-FD療法とPRP療法

PFC-FD™療法とPRP療法

PFC-FD™療法とは、患者さん自身の血液を遠心分離して血小板濃度の高い液体をつくり、その血小板の中に含まれる成長因子をさらに取り出して子宮腔内や卵巣へ注入する治療になります。遠心分離で血小板の濃い液体を作製して注入する再生医療・PRP療法の応用技術です。

主に子宮内膜の厚さ増大や、卵巣機能の改善を期待して用いられます。

こと体外受精においては受精卵を体内に戻して着床できるかどうかが重要なポイントですが、着床には子宮内膜の厚さが関係していることがわかってきています。(*3)

PFC-FD™と同程度の効果を持つPRPの子宮腔への注入による子宮内膜の厚さ増大を調査した研究(*4)では、二人の医師が厚さを確認し、PRPを注入したグループで平均0.995mm子宮内膜の厚さ増大が確認され、PRPを注入しなかったグループは出生が0だったのに対し、注入したグループでは胚移植によって15%の方が出生に至ったとされています。

体外受精に臨もうとしていて、年齢的に不安があったり、検査で子宮内膜が薄いことがわかっている方は、体外受精の成功率をあげるためにPFC-FD™療法やPRP療法も検討されると良いかもしれません。なお、PFC-FD™療法とPRP療法は保険診療では行なえません。

※確実に妊娠できることを謳うものではありません。また、薬剤ではなく血液から作られる性質上、効果には個人差があると考えられています。

まとめ

体外受精では、排卵誘発剤で卵巣刺激を行い、成熟した複数の卵子を適切なタイミングで取り出すことが重要なポイントになります。そのため、女性の月経周期に沿って通院をすることが大切です。

また、治療方法は身体状況やクリニックの方針によっても変わりますが、基本的に採精と受精、胚培養以外の過程はすべて女性が担うことになります。不安や疑問はしっかりと主治医へ相談し、少しでも心の負荷を取り除いた状態で治療にあたってください。

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参考文献

*1…体外受精に関するデータ
*2…体外受精・胚移植に関する見解
*3…堤治 「妊娠の新しい教科書」2022年4月 文春新書
*4…Maki Kusumi, Osamu Tsutsumi, Tatsuji Ihana, Takako Kurosawa, Yasuo Ohashi「Intrauterine administration of platelet-rich plasma improves embryo implantation by increasing the endometrial thickness in women with repeated implantation failure: A single-arm self- controlled trial」