概論
本記事で取り上げる「PFC-FD™」は、血液中の血小板に含まれる成長因子の力を活用する治療です。採卵、体外受精・顕微授精などのアシストを行う目的で使用されます。
実際に、「PFC-FD™」と同程度の効果と考えられるPRPを用いたいくつかの研究により下記のような効果が示されています。
- 子宮内膜の厚みが0.995mm増大が確認された(*1)
- 投与した患者群では、そうでない患者群に対し、妊娠・出生の割合が15%高かった(*2)
詳細についてはここから解説してまいります。
「PFC-FD™療法」とは

PFC-FD™療法とは、自己血液を活用した治療法です。再生医療であるPRP療法を応用した技術になります。
血液には血小板と呼ばれる組織が含まれており、日常生活では傷口をふさいだり治癒するのに重要な役割を果たします。これは、血小板が持っている”成長因子”という成分が働くためです。
血液を遠心分離すると、この血小板濃度だけが高い液体が作られます。これをPRPと呼びます。PFC-FD™療法は、このPRPを応用し、血小板の内側にある成長因子を外に取り出したのち、凍結乾燥させ長期間の保存と簡便な輸送を実現した技術です。
PFC-FD™療法は着床〜妊娠で重要となる子宮内膜の厚み増大や、卵胞発育の補助など、体外受精・顕微授精等のアシスト技術として活用されます。
効果
同程度の効果と考えられているPRPの研究論文から、PFC-FD™に期待される効果を読み解きます。
PFC-FD™に含まれる血小板の内側には、カサブタをつくって傷口を塞いだり、傷を修復する手助けをする「成長因子」という成分が存在することはさきほどお伝えいたしましたが、この成長因子が妊娠の手助けをしてくれます。
現在行われている不妊治療領域におけるPFC-FD™療法の施術方法は大まかに二通りで、子宮腔内に注入する方法と、卵巣内へ注入する方法です。順番に説明します。
①子宮内膜の環境改善
生成したPFC-FD™を、専用のチューブで子宮腔内に注入することで、子宮内膜の厚さ増大が期待できます。子宮内膜とは子宮内部の表面を覆う粘膜組織であり、受精卵が着床する”ベッド”のような存在です。子宮内膜が薄いと着床しにくいとの報告があります。
ある研究では、36名の女性を2グループに分け、PFC-FD™と同程度の効果があると考えられているPRPを子宮腔内に注入し子宮内膜の厚さを計測しました(*1)。この研究では二人の医師が厚さを確認し、PRPを注入したグループで平均0.995mm、子宮内膜の厚さが増大しました。
別の研究では、妊娠20週以内に2回以上連続で流産歴があり、次は顕微授精に進むというタイミングの患者40名を半分ずつのグループに分けてPRPの効果を測定しました(*2)。
この研究では凍結胚移植を行いましたが、結果は以下の様になっています。
- 何もしなかったグループ:妊娠=20%、出生=0%
- PRP療法を実施したグループ:妊娠=35%、出生=15%
どちらの研究においても対象患者数が少ないため、この数値が正確とは言えませんが、PRPの注入にポジティブな結果が得られています。
②卵巣機能の改善
PFC-FD™療法は、卵巣機能が低下している患者さんに対し、卵巣へ注入することで卵母細胞(卵子のもととなる細胞)を刺激して排卵を促し、妊娠確率向上が期待される、という活用方法もあります。
卵巣機能が低下している女性の卵巣にPRPを注入し、12名で経過を観察、卵母細胞の数が平均で3.5倍に増加したことが確認された研究があります(*3)。
この研究では、PRPの卵巣注入後、卵胞刺激と顕微授精を行い、うち3名が出産に至っています。なかには10回の精巣内精子採取と顕微授精を試みても妊娠できなかった女性が出産した例が含まれています。
こちらの研究データも対象人数が少ないですが、良好な結果を残しています。
※確実に妊娠できることを謳うものではありません。また、薬剤ではなく血液から作られる性質上、効果には個人差があると考えられています。
PFC-FD™療法の流れ

PFC-FD™療法を提供している医療機関にて患者さんから採血、セルソース株式会社の細胞加工センターへと輸送されます。
その後、検査と加工を経てセンターにてPFC-FDが精製されます。その後、採血を行った医療機関へと輸送されます。採血から施術可能になるまでの日数は約3週間です。
PFC-FD™療法のメリット
計画的な不妊治療の実行
PRPは採血しその場で遠心分離して精製されるため、治療を決断したタイミングで実施が可能です。一方、PFC-FD™療法は採血から施術まで約3週間必要にはなりますが、凍結乾燥加工により長期間の保存が可能です。
よって、PFC-FD™療法はその長期保存可能という特徴から、計画的な不妊治療への取り組みに向いています。
たとえば、子宮内膜の環境改善の場合、事前に採血を行いPFC-FD™を作製します。その後、妊娠しやすいタイミングに合わせてPFC-FD™療法を投与し子宮内膜を厚くして着床しやすい環境を整えてから胚移植で受精卵を子宮に戻す、といった流れを組みやすいことが最大のメリットといえます。
また、卵巣機能改善を目的とする場合、注入前にエコーで卵巣を同定する必要があります。特に卵巣機能が低下しているケースでは、月経周期を参考に卵巣を同定する事が難しい為、注入日を予め決定する事ができません。PFC-FD™は前もって作製、長期保管する事が可能ですので、エコーによる卵巣の同定が出来たタイミングで治療する事がメリットです。
一般的なPRP治療では採血したその場で治療が必要となりますが、PFC-FD™療法では凍結乾燥で保存しているという性質上、上述のようにじっくり不妊治療計画を建てることが可能となり、また、なにか計画に支障があった場合は延期することも可能です。
(*PFC-FD™は半年間の保存が可能です。)
実施可能な医療機関を下記ボタンから調べることができます。
※PFC-FD™はセルソース株式会社の保有する商標です。
おすすめの他の記事
*1…Maki Kusumi, Osamu Tsutsumi, Tatsuji Ihana, Takako Kurosawa, Yasuo Ohashi「Intrauterine administration of platelet-rich plasma improves embryo implantation by increasing the endometrial thickness in women with repeated implantation failure: A single-arm self- controlled trial」
*2…Leila Nazari, Saghar Salehpour, Sedighe Hosseini, Teibeh Hashemi, Nasrin Borumandnia, Elham Azizi. 「Effect of autologous platelet-rich plasma for treatment of recurrent pregnancy loss: a randomized controlled trial」
*3…Marzie Farimani, Safoura Heshmati, Jalal Poorolajal & Maryam Bahmanzadeh 「A report on three live births in women with poor ovarian response following intra-ovarian injection of platelet-rich plasma (PRP)」