不妊治療を始めることでご自身の生殖器について詳しく学ぶことは初めて、という方も多いのではないでしょうか。
今回は、妊娠に関わる体の各部位のしくみとその役割、生殖器に発生する病気について紹介します。
生殖器とは?
生物が種を維持するためにおこなういとなみを生殖といいますが、この生殖活動に関与する器官を総称して「生殖器」と呼びます。
人間は女性の卵子と男性の精子が結びつくことで新たな命が繋がっていきます。それぞれの性別によって生殖器の構造が異なり、違った役割を持っています。
生殖やホルモンバランスをつかさどる生殖器は、健康状態を知る大事なバロメーターともなります。性別による特有の病気を知ることが、不妊の原因を探るカギとなるかもしれません。
外性器と内性器
生殖器には男女ともに外性器と内性器があります。外性器はからだの表面に露出した部分、内性器は体の内側にある臓器です。
妊娠へ至るためには外性器と内性器、それぞれが適切に役割を果たす必要があり、妊娠を望む上でそれぞれの役割を理解することはとても大切です。
女性
外性器
恥丘(ちきゅう)
恥骨を覆う脂肪組織で、思春期にさしかかると陰毛で覆われる部位です。
恥骨が内部から張り出す事で隆起を形成し、女性の生殖器を外的衝撃から保護します。
大陰唇(だいいんしん)
表面に露出した女性器で、一番外側にあるのが大陰唇です。
尿道口や内性器を保護する役割を持ちます。
男性の陰嚢に相当する部分となります。
小陰唇(しょういんしん)
大陰唇の内側にある薄いヒダ状の皮膚は小陰唇と呼ばれます。
大陰唇、小陰唇ともに、尿道口や腟口を覆って、汚れや細菌から保護する役割があります。
左右の形や大きさ、色の濃淡は個人によって異なります。
陰核(いんかく)
小陰唇の前端にある小さな突起を陰核(いんかく=クリトリス)といいます。
神経や血管が豊富であり、性的に興奮することで充血しふくらみます。
男性の陰茎に相当する部分です。
内性器
腟
膣は子宮頸部と外性器をつなぐ、筋肉でできた伸縮性のある管状の構造をしています。
その長さは個人によって異なりますが約7~8cmです。
腟には良性の細菌が一定量存在しており、腟内を酸性に保つことで雑菌の繁殖を防ぐバリアとして機能しています。
バリア機能についてすこし詳しくお話しします。健康な女性の膣内フローラの75%〜95%を占めるのがデーデルライン桿菌(かんきん)とよばれる乳酸菌です。乳酸菌は膣内の糖類を栄養に乳酸を生み、膣内環境を常に弱酸性に保つことで外部からの雑菌の侵入を防ぎ、有害な細菌の繁殖を抑制しています。
性交時には男性の陰茎を受け入れ、出産時には赤ちゃんの通り道となります。また、子宮内膜から剥がれ落ちた月経血を体外に排出する部位でもあります。
子宮
子宮は骨盤のほぼ真ん中に位置する、洋梨をさかさまにしたような形状の器官です。
腟とつながる部分を子宮頸部、卵管とつながる部分を子宮体部と言います。受精卵が着床する場所であり、胎児が外に出るまで保育器の役目を果たします。
子宮構造イラストのように、子宮は子宮筋層その内腔を子宮内膜とよばれる粘膜組織で覆われており、女性ホルモンの影響を受けて妊娠の準備のために増殖と剥離を繰り返します。
月経血は、剥がれ落ちる際の出血と子宮内膜組織が混じったものです。
卵管
卵管は卵巣から排出された卵子を取り込み、受精の場所になります。卵管の先端部分には排卵した卵をピックアップする役割を持つ卵管采という部分があります。その卵管の長さは約7~12cmほどです。
性交によって射精された精子が最終的にたどり着くのが卵管であり、卵子と精子の受精は卵管采の手前部分にあるこの卵管内(卵管膨大部)で起こります。
受精卵を卵管表面にある微細な絨毛により子宮内へ運ぶ機能を持った卵巣と子宮をつなぐ管状の構造を持った特殊な管です。
受精が成立したあとは、受精卵の細胞分裂を助け、子宮まで送り届ける役割も担います。
卵巣
卵管の両先端部分にぶら下がるように存在する器官が卵巣です。卵巣内の卵はまだ女性が母親の胎内にいる時期に形成され、排卵が起こるまで卵巣内に留まっています。この卵巣は命の起源となる卵子をストックする臓器です。
卵巣の役割は主に二つあり、その一つは排卵です。
脳下垂体とよばれる両目の奥にある頭蓋内の臓器からの刺激(LH;黄体化ホルモン、FSH;卵胞刺激ホルモン)を受けて卵胞発育(未熟卵の状態から成熟卵になる)が起こり、排卵によって成熟卵が卵巣表面から排出されます。その卵は前述した卵管采でピックアップされます。
つまり、排卵とは、赤ちゃんの元となる成熟した卵子が卵巣を飛び出て卵管に入ることを指します。この排卵プロセスが適切に起こらなければ、妊娠することは難しくなります。
卵巣のもうひとつの役割、それは女性ホルモンの分泌です。女性ホルモンには上記の卵胞発育が起こるにつれて卵巣から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)と、排卵後、卵巣の黄体から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の二つがあります。この女性ホルモンの上昇により胸が膨らむ、体が丸みを帯びる、基礎体温が上昇する、月経が起こるといった妊娠や出産の機能とそのための体づくりを促します。
男性
外性器
陰茎(いんけい=ペニス)
下腹部と恥骨につながった陰茎根、陰茎体、亀頭からなり、亀頭の先端には、精液と尿の出口となる外尿道口があります。
陰茎の内部には海綿体(かいめんたい)というスポンジのような組織が存在し、興奮したり性的刺激を受けることで動脈から血液が流れこみ、膨張して硬くなります。
この状態が勃起と呼ばれる現象です。
性行為の際には、勃起している陰茎を女性の腟に挿入することで、体内に精子を送り込む役割を持ちます。
陰嚢(いんのう)
精巣を包み保護する、厚い皮膚でできた膜です。
正常な精子を作るためには精巣を適切な温度に維持することが重要とされています。
そのため、外気温に合わせて体温調節ができるよう外部へと垂れ下がっています。
内性器
精巣(せいそう)[※睾丸(こうがん)]
長さが4~7㎝、容積20~25mlほどの卵型の器官です。陰茎の下に垂れ下がった陰嚢の中に、左右1対ずつ入っています。
卵巣の主な役割が「排卵」と「女性ホルモンの分泌」だったように、精巣も「精子の製造」と「男性ホルモンの分泌」を担います。
精子は、男性側の遺伝情報である23本の染色体(核;DNA)を持つ生殖細胞であり、命の誕生に欠かせないものです。精巣内にある精祖細胞が分裂することによって作られます。その過程としては、まず精祖細胞から精母細胞になり、その後精子特有のしっぽの未だ形成されていない円形精子細胞を経て、最終的に頭部と尾部がある特有の形態になります。それには50-70日程度を要します。
そして、精巣が分泌する男性ホルモンは、「テストステロン」です。テストステロンは男性の第二次性徴に深く関わります。男性器の成長、声変わり、体毛が濃くなる、筋肉や骨がしっかりした男性らしい逞しい体つきになっていく、といった変化はテストステロンの作用によるものです。
精子の製造も第二次性徴の頃から始まるため、生殖能力を持つために欠かせないホルモンと言えます。また、骨盤神経に働きかけて陰茎の勃起を促すなど、性行動に必要な作用にもテストステロンの分泌が関わっています。
精巣上体(せいそうじょうたい)
精巣で作られた精子の成熟、貯蔵、精管への輸送を担う器官です。精巣の上部から下部にかけてくっつくように位置し、精管へとつながっています。
その全長は約6~7mほどあり、長い管を通る間に、精子は成長し運動する能力や受精する能力を持つようになります。精子の最大貯蔵量は10億ともいわれています。
精管(せいかん)
精巣上体から尿道まで精子を送る役割を持った、直径約3mm、長さ40~60cmほどの細長い管です。
精子は女性の体内(膣内)に射出されたあと、子宮・卵管内を経て、(前述した)卵管の先端である卵管膨大部で卵子と出会うまで、自力で泳いでいかなくてはなりません。そのエネルギーを保存するため、男性の体内にいる間は、この精管のぜん道運動(筋肉が収縮や弛緩を繰り返す動き)により効率よく運ばれていきます。
前立腺(ぜんりつせん)
膀胱のすぐ下に位置し、尿道の根本を取り囲むクルミ大の器官です。
精液の一部である前立腺液を作ります。この前立腺液には、たんぱく質分解酵素が含まれており、精子のまわりのたんぱく質を溶かすことで精子を活性化させます。
精嚢(せいのう)
前立腺の後ろに位置する袋状の器官で、精嚢液(せいのうえき)を分泌します。
精嚢液は、精液の約3分の2を占める、黄みを帯びたアルカリ性の粘液です。精子が活発に動き回るために必要な栄養となる果糖(かとう)が多く含まれており、精子に運動エネルギーを与える役割を持つと考えられています。
生殖器特有の病気
生殖器には、性別によって特有の病気があります。その例をいくつかご紹介いたします。
女性生殖器の病気
細菌性腟症
もともと腟内にいる細菌が、ストレスや疲労による免疫低下、腟内の過剰洗浄などによって異常に増殖し、炎症を引き起こす病気です。
おりものの量が増える、臭いがきつくなる、外陰部に痛みや痒みを感じる、といった症状が現れます。
妊娠中に細菌性腟症がある場合、正常妊婦に比べて切迫早産や早産のリスクが高くなると考えられています。この原因として、腟内の細菌が子宮内に移行し、羊膜、胎盤まで細菌が感染し炎症を起こす(絨毛膜羊膜炎)ためと考えられています。
非妊娠時でも、妊娠時同様に子宮内まで細菌が感染すると、下腹部痛や子宮内膜炎、卵管炎、さらに進むと骨盤腹膜炎になることがあります。
子宮や卵管の炎症は、不妊を引き起こす可能性がありますので、おりものに異変を感じたら早めの治療をおすすめします。
子宮頸がん(しきゅうけいがん)
主に子宮の内側を覆っている「子宮内膜」に発生するがんです。50-60歳台の閉経期の女性に多く、これも定期的な検診で早期発見することが可能です。
性交渉などによってヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が1年以上持続すると、一部の細胞が正常ではない形に変化し(異型性細胞の出現)、一部が悪性細胞に変化し、がんに進行していきます。それらの細胞は定期的に子宮頸がん検診を受けることで早期に発見でき、レーザー蒸散や円錐切除術などにより早期の対応が可能となり子宮を失わなくてすみません。
子宮頸がんは、その発生原因が解明されている数少ないがんの一つであり、予防にはHPVワ
クチンが有効です。
子宮体がん(しきゅうたいがん)
多くの子宮体がんの発生には、エストロゲンという女性ホルモンが深く関わっています。
出産をしたことがない、肥満、月経不順がある、といった要因でエストロゲンの値が高い方は、子宮体がんの発生リスクが高くなります。
病気の進み具合にもよりますが、子宮と卵巣、卵管を取り除く治療が一般的です。
子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)
子宮にできる良性腫瘍です。
小さなものも含めると、30歳以上の女性の20~30%にみられます。
卵巣から分泌される女性ホルモンの影響により大きくなります。
筋腫の位置や大きさによっては、妊娠の妨げになることもありますので手術等により取り除きます。
男性生殖器の病気
停留精巣(ていりゅうせいそう)
本来、精巣(睾丸)は生まれる前(胎生期)には体内にあり、出生後早期に陰嚢中に下降し、生後6ヶ月までには陰嚢内に存在します。しかしながら、その下降が適切に起こらず足の付け根の部分で鼠径部(そけいぶ)とよばれる所やお腹の中などに位置する状態のことを停留精巣と診断します。
男児の生殖器の異常としては最も多い疾患で、100児の1から2児で見られます。幼児期や小児期の早期に発見し、1歳までの下降が見られなければ精巣を陰嚢内に固定する手術をおこないます。
青年期まで達すると、精子形成の障害があらわれ、無精子症や乏精子症などにより男性不妊を引き起こしたり、精巣がんなどが発生する可能性があります。
精巣がん(せいそうがん)[※精巣腫瘍(せいそうしゅよう)]
精巣がんは発症年齢のピークが20~30歳代であり、他の泌尿器がんと比較して若年者に多いという特徴があります。
停留精巣がある場合、精子の産生が異常となり、精巣がんの発生リスクが高まるとされています。
初発症状がないまま精巣が通常より大きくなったり、精巣にしこり(硬結)ができることがほとんどです。進行が早く、転移しやすいという特徴がありますので、早期発見が重要です。
精巣炎
精巣に細菌やウイルスが侵入することで、炎症が起きた状態です。主に、おたふく風邪を起こすウイルス(ムンプス・ウイルス)が原因で発症します。
激痛を伴う場合もあり、精巣の腫れ、熱や身体のだるさ等の症状が見られます。
炎症によって精巣が委縮し、精子形成が障害される場合があり、乏精子症、精子無力症となり男性不妊に繋がることがあるため注意が必要です。
性感染症
性別に関係なく、誰しもかかる可能性があるのが「性感染症」です。
体液と粘膜、もしくは粘膜同士が接触することで感染します。
代表的な性感染症をいくつか紹介します。
性器クラミジア
クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)という菌が原因となり発症します。男性は軽い尿道炎のような症状が見られ、治療をせずに放置すると精巣上体炎、男性不妊症となる可能性があります。
女性は無症状のことが多く、症状があっても、おりもの量の微増や軽い生理痛にとどまります。しかし、性器クラミジアの感染が徐々に子宮の中へ広がると「子宮内膜炎」、卵管内や腹腔内まで炎症が及んでしまうと「卵管炎」「腹膜炎」になる恐れがあり、その際は強い腹痛が起こり緊急搬送され、盲腸炎との鑑別が必要な場合もあります。
特に卵管は精子と卵子の受精の場となる器官であり、炎症によって卵管の癒着や卵管閉塞が発生すると、不妊や子宮外妊娠のリスク因子となります。
淋病(りんびょう)
「淋菌」という細菌が引き起こす感染症です。
男性は尿道の違和感や排尿時の痛み、性器から膿が出るといった症状が現れます。
女性は淋病に感染しても症状が出にくいと言われています。
クラミジア同様、感染場所が生殖器の奥へ広がることで不妊症の原因となります。
梅毒(ばいどく)
「梅毒トレポネーマ」という細菌が引き起こす感染症です。菌を排出している感染者との性行為によって、粘膜や皮膚の小さな傷から感染します。
治療をせずに放置していると、3週間、3ヶ月、そして3年を区切りに、第1期、第2期、第3期、続く第4期と症状が悪化していきます。
主な初期症状は、感染部位にしこりやただれができることです。3ヶ月以上放置すると体内で梅毒が進行し、全身に赤い斑点などの諸症状が現れ始めます。
症状の進行は比較的遅いですが最終的には皮膚や筋肉、骨、臓器などに腫瘍が発生する重篤な性感染症です。特に妊娠中に感染してしまうと、流早産と死産となり、胎盤を介して胎児に伝播すると「先天梅毒」という多臓器異常を起こす状態になります。
この他にも、性感染症の原因となる菌には様々なものがあります。
性感染症を予防するには、コンドームを正しく使用することが効果的ですが、妊娠を希望する場合は利用ができません。そのため、妊活を始める際にはお互い性病に罹患していないか検査をおこなうことをおすすめします。
まとめ
女性と男性それぞれにしかできない役割が適切に働くことによって命が誕生します。
これから妊娠を希望される方は、自分の体がどのような仕組みになっているのか、また性別特有の病気や性交をする上で避けられない性感染症についても知識を持っておきましょう。
特に女性器は自然な体制で確認することが難しい部位でもあります。
他者の目が届かない部位だからこそ、自分自身でも状態を確認し、妊娠のために体を整えていくことが重要です。
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※参考
ちゃんと知りたい、女性の生殖器の解剖学 | インテグロ株式会社 (integro.jp)
男性の生殖器系の構造 – 21. 男性の健康上の問題 – MSDマニュアル家庭版 (msdmanuals.com)
引越に向けて | labo report | 不妊治療・体外受精専門 金沢たまごクリニック (tamagoclinic.com)
テストステロンが減るとどうなるの?【男性更年期障害の原因にも】 – 品川・大田区の大森駅前「マオメディカルクリニック」- 内科・皮膚科・泌尿器科・精神科・心療内科・男性更年期外来・認知症サポート (maomedical.com)
細菌性腟症とは?|富士製薬工業株式会社 (fuji-pharma.jp)
婦人科の病気|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)
精巣(せいそう)がん | 国立がん研究センター 東病院 (ncc.go.jp)
停留精巣(男性生殖器の病気|精巣(睾丸)の病気)とは – 医療総合QLife
性感染症 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)