不妊症

公開日:2023.02.27更新日:2023.07.14

お話を伺った先生

堤 治 先生

医療法人財団順和会
山王病院
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子どもを望み、避妊をせずに夫婦生活を1年以上続けても妊娠しない場合、不妊症が考えられます。

不妊症とは、一つの原因からなる「病気」ではなく、同じような症状の人が多くいる場合、その状態に名前を付けている「症候群」にあたります。つまり、一年間、性生活をしているにも関わらず妊娠できない状態にあれば、その時点で不妊症に該当するのです。

今回は、この不妊症について詳しく解説していきます。

不妊症とは

不妊症と病気の違い

病気とは、生体機能を維持する仕組みに異常が発生している状態のことをいいます。その意味で不妊症は病気ではないと言うことができます。

たとえば患部の痛みや出血、病変といった何かしらの症状があったり、健康診断等で検査数値に異常が指摘されて発覚することもあります。詳細な検査をすることでその原因が特定され、病気の診断を受けたのち、治療にあたります。

一方、不妊症は一定期間妊娠しない”状態”のことであり、痛みや生活上の違和感もないことが多く、日常を過ごす分には支障がなく、身体的には健康です。また、後で述べるように不妊の原因は様々ありますが、男女ともにまったく異常が見られず原因がわからないというケースも大いにあり、実際に不妊症患者のうち、1割程度は原因不明(*1)と言われています。

ただし、なにかしらの病気の結果として不妊状態にあるケースも大いにあります。子宮内膜症や子宮筋腫などでは日常生活で下腹部に痛みを伴い、さらに妊娠に支障が出るケースも少なくありません。こういった場合には不妊治療はもとより、病気への対処としての治療が必要となる場合もあります。

不妊症の分類

不妊症には、様々な分類があります。

たとえば、不妊の原因が排卵や卵管、子宮などの問題であると特定できる場合、女性側に起因することから女性不妊症といいます。反対に、造精機能障害や無精子症など男性側に不妊要因が特定できた場合、男性不妊症といいます。

そして、このように明らかな原因が特定できる場合を器質性不妊と呼んでいます。

一方、不妊原因を明確に特定できないケースを機能性不妊、あるいは原因不明不妊としています。

さらに、夫婦間で過去に一度も妊娠が成立したことがないものを原発性不妊症、一回以上妊娠の経験がある(流産含む)ものの、その後妊娠が成立しないものを続発性不妊症と定義しています。これらの分類をすることで、それぞれの不妊症に対する有効な治療を検討することに役立ちます。

不妊原因の男女差

2017年に世界保健機構(WHO)がおこなった不妊症の原因調査によると、女性原因の割合が41%、男性原因の割合が24%、男女双方が24%、原因不明が11%という結果でした。

男性は女性のように月経がありませんので、妊娠に対する当事者意識を持ちづらいこともあるかもしれませんが、調査を見ると分かるように不妊原因の半分近くは男性も関係していることが分かります。

よって、不妊治療に取り組むにおいては男女双方の理解と協力が不可欠と言えます。また、男性においても不妊治療でなくとも妊活の一歩目として検査をしておくべきである理由とも言える男性不妊症の原因を記載しますので、ぜひ男性も御覧ください。

ここから男女別の具体的な不妊原因についてご説明していきます。

女性側の不妊要因

妊娠の舞台となる女性の生殖器。女性側の不妊原因は日本産婦人科医会の情報を参考に下記のグラフのようになります。

ここからは、これら女性におこる不妊原因の詳細について、グラフの割合にある程度沿ってご説明いたします。

①卵管障害(卵管通過障害)

卵管とは卵巣と子宮をつなぐ管です。

卵管は、卵巣から排卵された卵子をピックアップし、卵子が精子と出会って受精する場でもあり、そのうえで受精卵を子宮に送る、という重要な役割を持ちます。
卵管障害とは、この卵管が狭くなっていたり(狭窄)、ひどければふさがっている(閉塞)などの異常がある状態のことです。

この障害があると、精子や受精卵が通りにくくなってしまい、不妊の原因となります。閉塞していないにせよ、卵管の先端で卵巣から排卵される卵子をキャッチする卵管采が癒着を起こしていたりすれば、そもそも卵子を卵管へ送れず(ピックアップ障害)、精子と出会うことが難しくなります。

このような卵管障害を引き起こすのは、子宮内膜症による癒着、腹腔内手術による卵管周囲の癒着、クラミジア感染症などによる卵管炎や腹膜炎、などが考えられます。

②排卵障害

排卵障害とは、排卵が遅い・不規則な状態を指し、なかには排卵が起こらない(無排卵周期)状態もあります。

排卵があっても不規則であれば排卵日予測が難しくなり、排卵の間隔が長ければ年間の排卵回数は少なく、それだけ受精できる機会が減ってしまいます。

なかには月経はあるが排卵されていない(無排卵)という状態もあり、この場合もそもそも卵子が精子と出会うことはできないので、そのままの状態では妊娠は望めません。

これら排卵障害が起こる主な原因には、卵巣機能を調節する脳の視床下部や下垂体の異常でホルモンが正しく分泌されていないか、出産後に高まるはずのホルモンであるプロラクチンが出産前から高い高プロラクチン血症、卵子がただしく育たず卵巣内で渋滞する多嚢胞性卵巣症候群、早発卵巣不全などが考えられます。

月経に乱れ・遅れ・欠如があり、かつ、なかなか妊娠できない場合にはこの排卵障害、およびその原因となる疾患が見つかることがあります。月経がサイクルどおりに来ない方で妊娠を希望される方はお早めに産婦人科にかかると良いでしょう。

③子宮内膜症

子宮内膜症とは、子宮内膜に似た組織(子宮内膜様組織)が本来あるべき場所(子宮の内腔)以外に発生してしまう状態を子宮内膜症といいます。

子宮内膜とは、子宮腔内の表面を覆い、卵管から運ばれてきた受精卵が着床するベッドとなる粘膜組織です。

正常な子宮内膜は妊娠に至らない場合、月経により出血を伴って子宮腔から剥がれ、体外へ排出されます。しかし、子宮内膜症の場合、子宮内膜が卵管を通って逆流し、子宮以外の場所で子宮内膜のような粘膜組織が発育します(図1)(*2)。通常の月経と同じように出血をともなって剥がれるため、その血液の排出口がないために発生した場所に血液が溜まって腫れたり、周囲の組織と癒着を起こして痛みとして自覚されたりします。

この子宮内膜症が卵管采や卵巣など妊娠のために重要な部位で発生すると子宮の働きを阻害し、妊娠のための本来の仕組みが機能せず、不妊となる場合があります。また、子宮内膜症の組織からは受精を妨げる物質が出ていると考えられています。

図1 かまくら春秋社「女性の病気と腹腔鏡」堤治 著

④着床障害

妊娠の成立には、ここまでの排卵と受精がうまくいったとしても、着床できないと妊娠へと至りません。ちなみに着床とは、精子と卵子が結びついてできた受精卵が、子宮内膜の中に潜り込み、胎児として育つ準備に入った状態を言います。(参考 *3)

着床障害とは、この着床の段階がなんらかの原因によりうまく行かない状態です。

主に、体外受精などを経た良好な受精卵を何度移植しても着床に至らない、というケースが着床障害に当てはまります。

着床障害の原因となるのは、子宮腔に子宮筋腫が突き出ている、子宮内膜にポリープができている、先天的に子宮奇形がある、といった母体の器質的な障害のほか、着床に必要な黄体ホルモンが分泌されないなどホルモンの影響によるもの、胚の染色体異常などが考えられます。

とくに着床で関門となるのは受精卵が潜り込む”ベッド”となる子宮内膜ですが、この子宮内膜が薄いために着床しづらくなる、ということが近年の研究で徐々に明らかになってきています。(*2) ただし、ここまで挙げたように様々な可能性があるため、はっきりとした原因を特定することは非常に困難と言えます。

⑤子宮頸管因子

子宮頸管とは、胎児を育てる空間である”子宮腔”と”腟”とをつなぐ、子宮の入り口の部分です。

通常、腟内は細菌の進入を防ぐために酸性に保たれているのですが、排卵期になると子宮頸管では水分量が高く、粘り気を持ったアルカリ性の頸管粘液(おりもの)が分泌されます。この頸管粘液は、射精された精子の運動を促し子宮腔へと通過しやすい環境を整えるのです。

しかし、何らかの原因で酸性度が高くなる、粘度が強すぎる、量が少ない、といった頸管粘液の異常が発生すると、子宮内および卵管へと精子がたどり着けなくなってしまい、不妊となる可能性があります。

⑥免疫因子

私たちの体には、通常、異物が体内に入ると対応する抗体を作って排除するような免疫機能があります。

この免疫反応の一環で、女性の身体にとって異物である精子が体内に侵入したとき、精子を外敵とみなし、攻撃し排除しようとする「抗精子抗体」が作られる人がいるのです。

抗精子抗体を持つことで、射精された精子が頸管粘液に侵入しても攻撃を受けて子宮までたどり着けない、人工授精によって精子を子宮腔まで送り込んでも子宮腔にいる抗体に攻撃されて動けなくなる、といった事象が起きてしまいます。

すでに持っている抗精子抗体をなくす有効な方法は現在まで見つかっておらず、この抗体がある場合は、自然妊娠の確率が極めて低くなるため、不妊の要因となります。男女どちらかにこの反応があれば人工授精や場合によっては顕微授精から不妊治療を始めることもあります。

男性側の不妊要因

厚生労働省データに基づくと、「造精機能障害」という精子をつくる器官のトラブルが8割を超えています。コチラを始め、男性の不妊原因について、ここから解説します。

①造精機能障害

造精機能障害とは、精巣で精子が作られる過程においてなんらかの問題が生じ、良好な状態の精子がうまく作れない状態です。

造成機能障害にも分類があり、精液中に精子がまったく見られない「無精子症」、精子の数がすくない「乏精子症」、数に問題はないが精子の運動性に問題がある「精子無力症」などが該当します。

この造精機能障害は男性不妊の原因の多くを占めるといわれ、厚生労働省データによれば8割を占めます。

原因はまだ不明確な部分も多いですが、おたふく風邪ウイルスから精巣炎を起こしたことに起因する造精組織へのダメージや、先天的な染色体や遺伝子の異常、下垂体ホルモンの異常などが原因と考えられています。

②精路通過障害

精路通過障害は、射精する際に精子が通る道となる精管が部分的に欠けていたり、詰まっていたり、狭くなっていたりすることで精子が正常に射出されない症状です。

精路通過障害の原因として、過去に手術を受けた影響や、尿道の炎症・腫れ、クラミジア等による精巣上体の炎症、精管閉塞、先天的な精管欠損などが考えられます。

また、尿道から射出されるはずの精液が、膀胱側に射出される逆行性射精という障害もあります。正常であれば射精時に膀胱への通路は閉じているのですが、自律神経系の問題や、前立腺の手術、糖尿病などの影響で逆行してしまうことがあると考えられます。

この場合、性交時に射精をしても射精液が出ない、または極端に少なくなることから自然妊娠は難しくなります。

男女ともに考えられる要因

その他、男女のどちらかではない要因については以下にご説明いたします。

①性交障害

身体的、精神的な要因で性行為ができない場合を指します。
女性においては腟が広がらないことによる挿入障害、男性においては勃起障害や性交はできるが射精できない射精障害などが考えられます。

これらは過度な緊張やストレス、過去のトラウマといった心理的要因によるところも大きく、特に男性の勃起障害や射精障害はマスターベーションでは射精できるケースも多いことから、
カウンセリングを受けても改善に至らない場合、妊娠につなげる治療として人工授精のステップへ進むことも有効です。

②原因不明不妊

男女ともに不妊検査をしても、不妊の原因となるような異常が見つからないケースです。

年齢によって変化する妊孕性

原因不明の不妊症では、妊孕性(にんようせい)も深く関わるとされています。

妊孕性とは、妊娠のしやすさ、妊娠するための力を指す専門用語です。妊娠に必要な、臓器と機能における個人の生殖能力とも捉えられます。

例えば、女性側では子宮や卵巣などの臓器状態と、排卵や月経の機能が妊娠と深く関わります。同じように、男性側では、精巣の臓器状態と、性交渉をおこなうための勃起、射精の機能が妊孕性を構成する一部と捉えられています。

この妊孕性は、加齢による影響を大きく受けることが知られており、特に女性において顕著です。その違いは配偶子、つまり卵子と精子の製造の過程の違いにあります。

女性はもともと、胎児の段階で卵巣の中に卵子のもととなる原始卵胞を持って生まれてきます。胎児の時点でピークである700万個を持っているとされ、誕生時には約200万個ほどの卵子を持つと言われますが、月経がはじまる思春期頃には約30万個まで減少し、それ以降も月1,000個程度のペースで減り続け、生理が終わる50代頃にはほとんどゼロに近づきます(図2)。(*3)

図2 文春新書「妊娠の新しい教科書」堤治 著

つまり、卵子は新しく作られることがなく、年齢とともに減少するばかりなのです。そのため、個人差はあるものの女性の妊孕性は20代前半頃が最も高く、それ以降はどんどん下がっていくと言われています。

一方、精子も一番初めの精祖細胞は母親の胎内にいる頃に作られるのですが、思春期を迎えると体細胞分裂によって増殖を始めます。分裂で増える精祖細胞は、精子発生過程に入るものと幹細胞としてそれ以後の精子発生に温存される細胞に分かれ、およそ3億個の精子が毎日新しく作られ続けていきます。卵巣は貯蔵型の臓器、精巣は製造型の臓器とも言われるゆえんです。
ただし、男性側は女性と違って加齢による影響はすくないと考えられていましたが、40代以降を境に精子の質に影響が出ているという説もあります。(*3)

これらの違いによって男性は女性よりも長期にわたり妊孕性を維持しますが、精子の質と数は年齢とともにゆるやかに低下することも事実です。

まとめ

ここまで見てきたように、不妊症とは、一つの原因からなる病気ではなく、様々な因子が複雑に重なって起こる、「妊娠しにくい状態」を指したものです。
ひとりひとり性格が違うように、それぞれのからだにも個性があります。まずはご自身とパートナーのからだの状態を知ることから始めることが大切です。年齢的な要因も大きく影響することから、気になる方はなるべく早めの受診をお勧めします。

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※脚注

*1…日本産婦人科医会
*2…堤治「女性の病気と腹腔鏡」かまくら春秋社
*3…堤治 「妊娠の新しい教科書」2022年4月 文春新書