子宮内膜症

公開日:2023.02.24更新日:2023.07.14

お話を伺った先生

藤原敏博 先生

医療法人社団鳳凰会
フェニックスアートクリニック
クリニックを見る

子宮内膜症は、生殖可能な年齢の女性のうち、およそ10人に1人が罹患しているとも言われる病気です。

2013年の「日本子宮内膜症啓発会議」によれば子宮内膜症の推計患者総数は260万人以上とされており、同年の有月経年齢の女性数約2,860万人で割るとおよそ10人に1人の割合となります。(*1)

子宮内膜症は、月経のある女性ならば誰もが発症する可能性があり、その症状は月経を繰り返す度に悪化します。

「ただの生理痛だ」と我慢して見逃している人も決して少なくありません。また、子宮内膜症は不妊の原因にもなるとされ、実にその50%が罹患しているとする報告もありますので(*2)、ご紹介する特徴や症状について当てはまるものがないかご確認ください。

当webサイトは医学的な診断を行うものではございません。また、疾患に対する症状やその他の特徴においても個人差がありますので、あくまでもご参考としていただきつつ、ご自身が罹患している可能性を感じられたら速やかに産婦人科へかかられることをおすすめいたします。

子宮について

子宮の役割

子宮は、受精卵が着床し、出産まで胎児を守り育てる重要な器官です。これから生まれる赤ちゃんの保育器の役割をします。

妊娠をしていないときは全長約7センチ、ニワトリの卵ほどの大きさです。大部分が平滑筋という意識的に動かすことのできない筋肉でできており、妊娠時には胎児の成長にあわせて約30~35センチまで増大します。

子宮内膜

子宮内側の表面を覆う粘膜を「子宮内膜」といいます。妊娠、とくに受精卵が子宮に落ち着くことを意味する”着床”のときには受精卵にとってベッドの役割を果たすので、妊娠においては非常に重要な組織です。

この子宮内膜は、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用によって厚みを増減します。

新鮮な内膜を保つため、周期の中で妊娠に至らない場合は黄体ホルモンの分泌が低下していき、約2週間で自然にその機能を失います。このとき、急激なホルモン低下によって古い子宮内膜は維持できなくなり、出血をともなって剥がれ落ちることで月経が起こります。いわゆる生理と呼ばれるこのサイクルは、約28日の周期で増殖と剥離を繰り返す子宮内膜が関係して起きているのです。

子宮内膜症とは

子宮内膜症とは、上述した子宮内膜に“よく似た組織(子宮内膜様組織といいます)”が、本来あるべき子宮腔ではない場所に生じる状態をいいます。

発生する場所は、もともと子宮内膜が存在するべき子宮と比較的近い骨盤内組織(骨盤や消化器を覆う組織)や卵巣および卵管が多いとされますが、まれに離れた場所、たとえば腸や肺にも発生します。

子宮内膜症が発生した箇所では、通常の子宮内膜と同様、ホルモンの影響を受けて月経のような現象が起きます。つまりホルモンの増減に応じてこの組織が剥がれて出血します。しかし、当然ながら子宮以外の場所では月経で体外へ出ていくことができないので、行き場のない剥がれ落ちた組織や血液がその場所に溜まってしまいます。

結果、痛みや不妊を引き起こします。なお、不妊については、子宮内膜症が直接の原因になる場合もありますが、明確ではないものの影響はしているだろうと推察される場合もあります。(*3)

いずれにせよ、子宮内膜症は発症する場所により自覚症状は異なりますが、体内の痛みや不妊として自覚されることが多い疾患といえます。

子宮内膜症の原因

子宮内膜症のはっきりとした原因はいまだに特定されておらず、いくつかの仮説が挙げられています。その中から本稿ではSampsonによって提唱された月経血の逆流現象が関わる子宮内膜移植説をご紹介いたします。(*4)

これは、月経血の中に含まれる剥離した子宮内膜組織が、子宮から卵管の方へ一部逆流して運ばれ骨盤腹膜、卵巣表面などに付着し生育することで子宮内膜症が起こるという説です。月経血の逆流自体は異常なことではなくむしろ95%の女性に起こると言われます。

かつての女性たちは初経後まもなく結婚し、複数回の妊娠・出産・授乳を繰り返すというライフスタイルが一般的でした。妊娠中などは月経がないので、生涯で経験する月経は50~100回程度だったと考えられています。

一方、現代の女性は出産回数の減少や初産の高年齢化からも分かるように、月経が休むことなく続き、生涯で経験する月経回数は昔の女性の5倍以上である450回ともいわれています。

この説に則れば、月経の回数だけ月経血が逆流するリスクは増しますし、したがって子宮内膜症を発症するリスクは高まると言えます。よって、現代の女性は昔にくらべて子宮内膜症リスクが高い可能性があります。(*5)

子宮内膜症の主な分類

ここからは子宮内膜症の主な分類をご紹介します。

ただし、子宮内膜症は先に述べましたように、体のどこにでもできうる病変であり、必ずしもこの分類に当てはまるわけではありません。

①卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)

卵巣チョコレート嚢胞とは卵巣内に子宮内膜症を発症することで、おもに月経のたびに卵巣に経血が溜まることで卵巣嚢胞(のうほう)ができます。嚢胞(のうほう)とは、からだの中に生じた袋状の病変で、中に液体が溜まったものを指します。

この卵巣嚢胞の中身は古くなった血液ですが、酸化によってまるでチョコレートのような茶色っぽい液体になるため、チョコレート嚢胞と呼ばれます。

このチョコレート嚢胞が大きくなり、骨盤内のほかの臓器と癒着してしまうと、痛みなどの症状が重症化したり、卵巣がんを引き起こす原因にもなるとされています。

また、卵巣内にこの嚢胞が生じることで、卵巣が腫れて卵胞の発育が悪くなる、卵巣機能の低下を引き起こし、排卵が起こりにくくなる、卵管が圧迫されて卵子の移動を妨げる、といったさまざまな不妊の原因ともなります。

この卵巣子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢胞(のうほう))は超音波検査等で発見することができ、嚢胞の大きさや今後妊娠を希望するかによって薬物治療か手術治療か、手術の中でも保存手術か根治手術か、といった選択肢があります。

②腹膜病変

お腹の内側を覆う薄い膜を腹膜と言い、この腹膜に子宮内膜症が起きて、腹膜の表面に子宮内膜様組織が発生したものを腹膜病変といいます。

自覚症状がないことも多く、不妊治療や他の子宮疾患治療のため腹腔鏡検査や開腹などをおこなうことで初めて確認されるケースがよく見られます。腹膜病変があると腹腔内の炎症が強くなり、腹水の中に白血球の一種、マクロファージという細胞が増加します。これは貪食細胞とも呼ばれ、活性化することで精子を食べてしまうこともあります。働き始めたマクロファージは、さらにサイトカインというタンパク質を放出するのですが、このサイトカインが筋肉収縮を促す働きのある物質(プロスタグランジン)を作り出すことで卵管の異常収縮を起こすケースもあり、これら腹腔内の環境の悪化が不妊を引き起こしてしまうことがあります。(*2)

③深部子宮内膜症

深部子宮内膜症は、その名の通り腹部奥に子宮内膜症の病変が生じることを言います。主に子宮の後ろに位置し、直腸との間に存在する空間”ダグラス窩(か)”に生じるものを指します。

(英名のDeeply infiltrating endometriosisからDIEとも略されます)

深部子宮内膜症の発生位置には様々な臓器が重なっており、子宮内膜症が発生することでそれらの臓器を癒着してつなげてしまうことがあります。この影響で直腸が癒着し排便時に腸が引っ張られる排便痛を引き起こしたり、子宮が直腸側に癒着し性交時に強く動かされることで激しい性交痛を伴ったり、という弊害をもたらすことがあります。

深部子宮内膜症は、妊娠への影響が比較的少ないとされますが、性交できないほどの性交痛があれば自然妊娠のハードルはあがり、排便痛があればそもそもの日常生活に支障をきたします。

この深部子宮内膜症が生じるダグラス窩は、多くの臓器が隣接している箇所にあることから、画像などの検査で発見しにくいことに加え、付近の臓器を傷つける危険性があることから、手術には高い技術が求められます。よって、深部子宮内膜症は日常生活が困難であったり、進行状況によってリスクが高いと判断される状況を除いて、患者さん本人が不妊治療を目的としている場合には手術を行わずに薬の服用などの治療にとどめてまずは妊娠を目指す、という場合も少なくありません。

④その他

前段でも触れましたように、子宮内膜症は肺、乳房、胃、膵臓、肝臓などほとんど全身のどこでも発生する可能性があります。

たとえば子宮内膜症が肺にできて血痰や喀血といった症状が出たとしても、これらの症状で真っ先に疑われるのは結核や肺炎など肺に関連した疾患ではないでしょうか。発症したご本人も、婦人科ではなくまずは呼吸器内科を受診するでしょう。

そのため、子宮から遠い場所の子宮内膜症については、子宮内膜症であることがわかるまで時間を要する場合があります。子宮内膜症の症状は月経周期に関連することも多いので(※注1)、症状と周期が一致している場合にはそれを医師に伝えることが早期発見のきっかけになりえます。

※注1

子宮内膜同様、月経に合わせて剥がれて出血を伴うことも多いですが、その周期が月経と完全には一致しない場合もあります。

ポイント:「痛み」を感じたら要注意

子宮内膜症患者のほとんどに見られる自覚症状として、「強い月経痛」が挙げられます。強い月経痛にはいくつかの要因がありますが、その一つが子宮の収縮です。

排卵期には子宮は上向きに収縮することで精子が卵管へたどり着きやすいように促し、月経期には下向きに収縮して月経血を体外へ排出するよう促します。

その際、子宮や腸の筋肉を収縮させる働きをする物質(プロスタグランジン)が分泌されます。この物質(プロスタグランジ)は、発熱や疼痛を引き起こす作用があり、他にも過剰分泌されると腹痛増悪や、胃腸の働きにも悪影響を及ぼし、胃痛や吐き気、下痢といった症状が出るケースもあるとされます。

子宮内膜症の女性は、子宮内膜類似組織が存在するのでこの物質(プロスタグランジン)の分泌量が多いのではないか、と考えられています。つまり、月経時に子宮内膜症でない方よりもつらい状態に科学的になりやすいのではないか、と考えられるのです。

また、子宮内膜症病巣からの出血でお腹に溜まった血液が腹膜を刺激することで強い痛みをもたらしたり、深部子宮内膜症で見られる排便痛や性交痛のように、月経期間以外でも激しい痛みを感じる症状もあります。

このように、子宮内膜症では「痛み」がひとつの予兆といえますので、重度の月経痛のほかにも原因が分からない痛みやつらい症状を自覚するのであれば、産婦人科を受診するようにしましょう。

(参考:主婦の友社 よくわかる最新医学 子宮内膜症 つらい痛みに悩むあなたへ 著百枝幹雄)

まとめ

子宮内膜症は痛みや不妊を引き起こす疾患です。そして、その性質から発見が難しい場合も難しくありません。

月経時に辛い思いをしていたり、思い当たるフシがあっても、下記のような気持ちで見逃してはいませんでしょうか?

  • 月経痛は体質によって痛みの感じ方が違うだけで少なからずみんなあるものだ
  • 生理の期間が終われば痛みはなくなるから重く捉えていなかった

子宮内膜症は本稿で解説しましたように、その病巣が周囲の組織・臓器と癒着を起こすことがあります。放置してしまうと臓器との癒着が進行するリスクが高まり、癒着が進行するほど治療の難易度も上がります。そして子宮内膜症は不妊の原因となる疾患でもあります。

なるべく早く治療を開始することが大切です。思い当たることがありましたら産婦人科を受診されることをお勧めいたします。

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*1…日本子宮内膜症啓発会議公益社団法人日本WHO協会)
*2…日産婦誌61巻9号研修コーナー (kyorin.co.jp)
*3…日本産婦人科医会「子宮内膜症不妊への対応」
*4…子宮内膜症の発生 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)
*5…【大規模実証事業】最終報告書_(ウ)女性の健康_月経困難症研究班_東京大学_s (mhlw.go.jp)