アッシャーマン症候群とは

公開日:2023.07.27更新日:2023.07.27

不妊の要因には様々なものがありますが、子宮由来の不妊要因のひとつに「アッシャーマン症候群」というものがあるのをご存じでしょうか?

まだ症例数が少なく、広く知られていないために初めて聞いた方も多いかと思います。

今回は、このアッシャーマン症候群について詳しく解説していきます。

アッシャーマン症候群とは

アッシャーマン症候群は、人工妊娠中絶手術や流産手術などの子宮内操作後に、子宮腔内の一部または全体が癒着することで、無月経や不妊症などを呈する症候群です。

この癒着、つまりアッシャーマン症候群は、子宮の内膜や子宮内壁組織に切り傷、擦り傷といった「瘢痕(はんこん)」が生じた際、その治癒する過程で組織同士の結合である「瘢痕組織(はんこんそしき)」が形成され、子宮腔の内膜同士が部分的または全体的にくっついてしまうことで起こります
子宮内腔癒着(しきゅうないくうゆちゃく)とも呼ばれます。

瘢痕組織は、薄い軽度のものから、厚い帯状のものが形成される重度の症状まで、様々あります。

アッシャーマン症候群の原因

アッシャーマン症候群に至る一般的な原因として、子宮への外科的処置後の損傷や、子宮内への感染症によるものが考えられます。
原因となりうる事例をいくつか紹介します。

子宮内掻爬術(しきゅうないそうはじゅつ)

初期の人工妊娠中絶や流産、その他子宮に関わる婦人科的問題のためにおこなわれる、子宮の内容物を取り去る手術です。

実際の手術では、子宮と膣をつなぐ子宮頸部を拡張し、金属製の細長い器具を子宮口から入れて、子宮内膜を傷つけないように注意しながら、胎児や胎盤といった子宮内の妊娠組織内容物を全体的にかき出します。

手技の際に誤って子宮内膜を傷つけてしまうことで、術後に瘢痕組織の癒着が形成され、アッシャーマン症候群へ至ることがあります。

筋腫核出術(きんしゅかくしゅつじゅつ)

子宮筋腫を取り除く手術の一つが「筋腫核出術」です。
筋腫が発生した部位や大きさによっては不妊や体調不良の症状が現れることもあり、この手術による治療を検討することがあります。

筋腫核出術では、子宮内の筋腫部分のみをくり抜き、穴のようになった部分を縫合します。
この手術は妊娠に必要な子宮体部を残すことができますので、以後の妊娠希望がある場合に選択されます。

手術方法として、腹部を大きく切って手術をする開腹手術や、腹部にいくつかの小さな穴を開けて器具を入れる腹腔鏡手術、膣から器具を入れる経膣式手術と複数の選択肢がありますが、いずれも子宮内への外科手術であるため、子宮内膜を傷つけることで瘢痕が生じ、癒着が形成されてアッシャーマン症候群へ至る可能性があります。

帝王切開

腹部と子宮をメスで切開し、外科手術によって母体から胎児を娩出する出産方法です。
普通分娩にリスクが伴う場合に選択されます。

帝王切開も子宮への外科的処置であるため、手術の際に子宮内膜を傷つけてしまった場合、治癒の過程における瘢痕組織の癒着によってアッシャーマン症候群に発展するケースが考えられます。

子宮内膜炎

性交や長期間にわたる不衛生なタンポンの利用などによって子宮内へ入り込んだ細菌に感染し、子宮内膜に炎症が起こった状態です。
この炎症が治癒する過程で、ごくまれに子宮内膜同士が癒着し、アッシャーマン症候群へ繋がる可能性があります。

このように、アッシャーマン症候群を発症するリスクがある子宮への外科的手術や感染症はいくつか考えられます。
これまでの症例数が少なく、命に関わる病気ではないことから広く知られていないのが現状ですが、子宮という臓器の疾病は妊娠・出産に多大な影響を及ぼします。

アッシャーマン症候群の症状と不妊の関連

女性不妊のうち、子宮に関連するものが18%程度あるとされており(*1)、アッシャーマン症候群もその要因となる疾病のひとつです。
本稿ではアッシャーマン症候群の症状と不妊との関連性をご紹介します。

月経異常

月経は、妊娠準備のために形成された子宮内膜が周期的に剥がれ落ち、出血とともに排出されることをいいます。

子宮内膜に癒着があるアッシャーマン症候群の場合、その程度によっては月経の血流が部分的または完全に遮断され、子宮内膜が剥がれ落ちにくくなってしまいます

そのため、1周期あたりの月経に伴う総出血量が20mL以下と非常に少なくなる過少月経や、3か月以上月経が滞る無月経を引き起こすことがあります。

不妊症

先に挙げたアッシャーマン症候群による過少月経や無月経の症状がある場合、排卵日の予測を立てることが難しくなります。妊娠には卵子が必要不可欠ですから、排卵のタイミングが分からない場合、妊娠の機会が限られることで不妊につながります。

また、アッシャーマン症候群で子宮内腔に癒着が起きた状態にあると、子宮の筋肉の活動が制限され、卵巣から分泌されるホルモンが子宮全体へ十分に行き渡らなくなってしまう可能性があります。
すると、受精卵が着床するために必要な子宮内膜の厚さまで成長できず、「着床不全」による不妊を引き起こす一因となります。

「妊娠」は受精卵が母体に根を張り着床することで成立しますので、アッシャーマン症候群によって着床不全が起きやすい環境であれば、妊娠に至ることができずに不妊症となる可能性が高まってしまいます。

流産

「流産」とは、妊娠22週未満で妊娠が終わってしまうことをいいます。

子宮内膜は受精卵を守るベッドのような役割を果たすため、子宮内膜の厚さは妊娠において重要なポイントとなりますが、アッシャーマン症候群によって子宮内腔に癒着があることで一時的に着床できたとしても妊娠の状態を継続できずに流産となるケースがあります

また、自然排出に至らない流産であれば、子宮内容物を摘出するための流産手術を受けることとなります。
子宮への外科的処置を受けることにより、癒着がさらに悪化するリスクもありますので、注意が必要です。

検査方法

アッシャーマン症候群は子宮内側の癒着であることから、外側からの触診でははっきりしたことがわかりません。
そのため、以下のような検査で確認します。

子宮卵管造影検査

子宮卵管造影検査は、子宮の入り口からカテーテルを入れて卵管まで造影剤を注入し、造影剤の流れをレントゲン透視で観察することで子宮内のかたちの状態や卵管、骨盤内の状態を見る検査です。
子宮内の陰影が映し出され、子宮内膜同士の癒着の有無を推定することができます。

子宮鏡検査

子宮内腔の異常が疑われた場合や不妊症、着床障害チェックの一環として子宮内腔を内視鏡で観察する検査です。

子宮頸部から照明付きの細い望遠鏡のような器具を挿入し、医師が子宮の中を直接見ることができますので、子宮内腔癒着を評価するのに適した方法と言えます。

腹腔鏡検査

へその下辺りを小さく切開し、そこから腹腔鏡と呼ばれる細い内視鏡を挿入して内側の臓器を確認する検査です。

開腹手術に比べて切開の範囲が小さく、体への負担が少ないと言われています。
この検査によって子宮や卵巣などの骨盤内臓器の状態が確認できるため、子宮内の癒着も発見することができます。

アッシャーマン症候群の治療

アッシャーマン症候群の治療は、その原因や、病変の程度、および年齢や妊娠の希望有無など個々の要因によって異なります。
軽度の癒着であれば、経過観察となることがほとんどです。

妊娠に影響がある場合には、癒着を起こしている子宮内膜同士を剝がす必要があります
その場合、子宮口から内視鏡を入れてモニターを見ながらおこなう子宮鏡下手術などによって瘢痕組織を剥離、切断する治療が一般的です。

また、手術後はその治癒の過程で再び組織同士が癒着してしまうことが懸念されます。
これを防ぐため、術後の回復期には再度子宮壁どうしが接触して癒着しないよう、子宮腔内に先が風船のような形をした細い管状のバルーンカテーテルや子宮内避妊器具をしばらく挿入します。

外科的治療によって癒着を改善したあとは、子宮内膜の再生を促すために女性ホルモンであるエストロゲンなどを周期的に投与することで、妊娠に向けて子宮の環境を整えていきます。
子宮内膜の厚さは腹部エコーで確認することができますので、経過観察をしながら不妊治療のステップを進めていきましょう。

まとめ

今回は、まだ症例数の少ないアッシャーマン症候群について解説しました。
過去に人工中絶や流産、その他の疾病で子宮内部へ人為的な処置をした経験があり、現在なかなか妊娠に至らないという方は一度調べてみるといいかもしれません。

重症化を防ぐためにも、過少月経や無月経などの月経の異常サインを見逃さず、なるべく早めに病院を受診するようにしましょう。
適切な治療をすることが不妊解消の第一歩となります。


※脚注

*1…5.不妊の原因と検査 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)

※参考

子宮内腔癒着(アッシャーマン症候群)の原因・検査・治療|医療法人オーク会

Asherman症候群(子宮内腔癒着症) (tsudanuma-ivf-clinic.jp)

Live births after Asherman syndrome treatment (fertstert.org)

日本産科婦人科内視鏡学会雑誌Vol.33 No.1; 186-191, 2017. (jst.go.jp)

日産婦誌61巻7号研修コーナー (kyorin.co.jp)

アッシャーマン症候群の方は胚移植時の子宮内膜の厚さは妊娠に影響しない? – 不妊治療クリニックスタッフブログ|桜十字ウィメンズクリニック渋谷 (sj-shibuya-bc.jp)

株式会社メディックメディア『病気がみえる Vol.9 婦人科・乳腺外科 第3版』p.218,227,237om)