子宮筋腫について

公開日:2023.07.14更新日:2023.07.14

女性特有の病気の中でも子宮筋腫の患者数は多く、厚生労働省の患者調査(令和2年)によると、子宮筋腫の推定受診患者数は12万4千人にのぼります。(*1)

また、女性不妊症の約18%が子宮に起因するとされ、子宮筋腫はその一因となりうる疾病です。(*2)

今回は、不妊とも関係する「子宮筋腫」について解説していきます。

子宮のしくみと筋腫

子宮は女性特有の臓器であり、妊娠時に胎児を守り育てる役割を持ちます。

妊娠をしていない時の子宮はニワトリの卵ほどの大きさですが、妊娠をして胎児が成長するとともに、その大きさは30㎝以上にも広がります。

これは、子宮自体が平滑筋という筋肉でできているために収縮可能となっているのです。

そして、この平滑筋細胞にできる良性の腫瘍が子宮筋腫です。筋肉にできる腫瘍であることから、筋腫と呼ばれています。

腫瘍は普通の体の細胞とは異なり、独立して増殖する細胞の集団を指します。見た目はコブのようなかたまりです。

子宮筋腫は外側から目視できないこともあり、症状がなければ発生していたとしても気付かないことがほとんどですが、30歳以上の女性のうち、20〜30%に子宮筋腫があると言われるほど身近な疾病です。(*3)

悪性腫瘍(がん)のように周囲の組織を破壊しながら急激に大きくなったり、他部位に転移したりすることはありませんが、発症すると徐々に大きくなり、さまざまな症状をもたらすことがあります。

子宮筋腫の種類と症状

子宮筋腫は発生する場所によって3種類に分けられ、それぞれ症状が異なります。

①粘膜下筋腫(ねんまくかきんしゅ)

子宮壁の一番内側の層である「子宮粘膜」の直下に発生し、子宮の内側に向けて発育する筋腫です。他の筋腫に比べて子宮内膜へのダメージが大きく、小さな筋腫であっても通常より出血が多くなってしまいます。

そのため、経血量が増える過多月経が特によく見られます。

この他、月経期間が8日以上つづく過長月経や、月経痛、経血量の多さ・不正出血による貧血といった症状が出やすいのも特徴です。

また、子宮内腔の変形によって受精卵の着床を妨げるなど、子宮筋腫の中でも不妊や流産・早産の原因になりやすいとされる筋腫です。

②筋層内筋腫(きんそうないきんしゅ)

子宮壁の真ん中の層である「子宮筋層」に発生するのが筋層内筋腫です。最も発症率が高い筋腫とされています。

筋腫が小さいうちはほとんど症状はありませんが、大きくなることで子宮内膜の収縮を妨げ、子宮内側を圧迫し、過多月経や激しい生理痛などを引き起こすようになります。

また、粘膜下筋腫と同様に流産・早産の原因ともなります。

③漿膜下筋腫(しょうまくかきんしゅ)

子宮壁の表面を覆う一番外側の層である「漿膜」の下に、子宮の外側へ飛び出すように発生する筋腫です。

そのため子宮全体の形はほとんど変形せず、子宮内の空間も圧迫しないため、過多月経や貧血といった、他の子宮筋腫で一般的に見られる症状が現れにくいという特徴があります。

特に症状もないまま筋腫が大きく成長してしまい、子宮周辺の臓器を圧迫し始めたころに、月経異常以外の症状によって気付くケースも考えられます。

膀胱の圧迫による頻尿、尿道の圧迫による尿の出にくさ、直腸の圧迫による便秘、腰椎神経の圧迫による腰痛などが代表的な症状です。

発生原因

子宮筋腫ができる明確なメカニズムは今のところわかっていません。

そのため、予防をするのは難しいというのが現状です。

いくつかの要素が原因として示唆されています。人種や遺伝的要因、年齢、初経年齢が早いこと、出産歴などが影響している可能性が示唆されています。人種においてはアメリカの研究で35歳以下のアフリカ系の女性で60%に見つかった一方で、白人女性においては35歳以下では40%にしか見られなかったとしており、人種はひとつの要因と言えそうです。(*4)

また、子宮筋腫は30代以降の性成熟期頃に発見されることが多く、女性ホルモンの分泌が減少した閉経後には小さくなる傾向があります。

そのため、筋腫の発達には卵巣から分泌される女性ホルモンのひとつ、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」が影響している可能性が指摘されています。(*5) エストロゲンは女性の体の成長や月経、妊娠と深く関わっているホルモンです。

検査方法

女性の方は2年に一度の子宮がん検診が推奨されているため、定期的に検査を受けることで自覚症状がなくても子宮筋腫が見つかることがあります。

詳しく確認するためには以下の検査をおこないます。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査とは、人の耳には聞こえない高い周波数の音波(超音波)を対象物に当て、はね返ってきた反射波の強さや反射するまでの時間などさまざまな情報を元に患部を映像化(画像化)する検査方法です。

子宮筋腫を調べる超音波検査には、細い棒状のプローブと呼ばれる機器を腟に挿入して子宮や卵巣を観察する経腟法(けいちつほう)と、あおむけに寝た患者の腹部にゼリーを塗り、その上でプローブを動かして超音波をあてる経腹法(けいふくほう)の2種類があります。

経腟法は、子宮内膜の状況が映し出され、主な子宮筋腫の数や大きさ、位置、種類、卵巣の異常などを検知することができます。

経腹法は、直径10センチ以上の大きな筋腫や、筋腫が多発して子宮自体が大きくふくらんでいる場合であれば子宮の全体像を把握しやすいというメリットがあります。

ただし、超音波検査では他の病気(子宮腺筋症、卵巣腫瘍、子宮肉腫など)との鑑別が難しい面もあるため、詳細な検査を要する場合にはMRI検査などをおこないます。

MRI検査(磁気共鳴画像診断)

MRI検査では、強い磁気と電波を利用して縦、横、斜めとさまざまな体の断面を画像化します。超音波検査よりさらに精度が高く、広範囲の詳細な画像を得ることができます。

子宮筋腫の正確な数や大きさ、位置、膀胱や直腸など他の臓器を圧迫していないかを調べたり、子宮筋腫と他の病気を見分けるのに有効です。

子宮筋腫の治療

子宮筋腫は良性の腫瘍ですので、見つかったとしてもそのサイズが小さかったり、数が少ない場合には特別な治療をせず、経過観察しながら治療を進めるのが一般的です。

しかし、過多月経や月経困難症など不快な症状を引き起こすものや、妊娠に影響すると考えられる場合には、手術を含めて積極的に治療を検討することとなります。

子宮筋腫の一般的な治療方法は以下の通りです。

①薬物療法

対症療法

子宮筋腫による過多月経、過長月経、月経痛などの症状緩和を主な目的とする治療方法です。
貧血を改善するための鉄剤の処方や、月経に伴う疼痛コントロールを目的とした非ステロイド性抗炎症剤の投与、月経困難軽減を目的とした低用量ピルの処方などがあります。

これらはあくまでも表面化している痛みの症状などを和らげるための治療ですので、子宮筋腫自体を小さくする効果はありません。

投薬による偽閉経療法

GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニストあるいはアンタゴニストといわれる薬剤によって、卵巣が分泌する女性ホルモン(エストロゲン)の産生を抑えて、筋腫を縮小させる治療方法です。

閉経が近い場合や、手術を避けたい場合などにおこなわれます。

注射や点鼻薬、経口薬など複数の種類がありますので医師の処方に従います。

後述する、筋腫のみを取り除く子宮筋腫核出術の前治療としても有効です。

薬剤を投与している期間は月経が止まりますので、子宮筋腫病状の進行は改善します。

一方、卵巣機能を抑制することになるため、更年期にみられるほてりやのぼせといった症状や、骨量減少などの副作用も懸念されることから、6ヶ月以上の長期使用は控えます。

使用を中止すると子宮筋腫は再度大きくなったり症状が再発することもあります。

②手術療法

筋腫核出術(きんしゅかくしゅつじゅつ)

妊娠を希望する方については、子宮筋腫の部分だけをくり抜く「筋腫核出術」という手法で、妊娠に必要な子宮体部を残す手法が一般的です。

筋腫が大きく、切除手術時に出血量が多くなることが予想される場合には、投薬による治療でまずは筋腫を小さくしてから手術に移行することもあります。

発生部位や大きさ、数などを考慮し、開腹手術か腹腔鏡手術かを選択します。最近は身体への負担が少ない腹腔鏡手術が主流です。ただし、筋腫だけを切除した後は一時的に症状が軽減したとしても、子宮自体は残っていることから、筋腫が再発することもあり得ます。

子宮筋腫の外科的な摘出により、1〜5年の不妊に苦しんでいた患者の妊娠率が改善した、とする研究もあります。(*6) 日常的に子宮筋腫による症状が大きくなくても不妊に影響している可能性がありますので、気になる方は主治医とご相談されるとよいでしょう。

子宮全摘術(しきゅうぜんてきじゅつ)

以後の妊娠について希望がなく、子宮温存の必要性がない場合に選択される治療方法の一つです。子宮を摘出することで、子宮筋腫が再発することもなくなります。

開腹、腹腔鏡、腟側からの操作のみによる腟式の術式があります。

いずれの治療法にもメリットやデメリットがありますので、患者の年齢や今後の妊娠予定、子宮筋腫の大きさ、数、部位、などを考慮し、医師と相談の上治療方法を選択することとなります。

引用元子宮筋腫 | 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 (jsgo.or.jp)

妊娠後に筋腫が発見された場合

子宮筋腫は不妊症の一因となりますが、全ての筋腫が妊娠を妨げるわけではありません。

妊娠と診断されたあとに子宮筋腫が見つかるケースもあります。

自覚症状のない小さな筋腫であれば、問題なく出産まで経過することがほとんどです。

しかし、胎児の成長を妨げるほど大きい筋腫の場合には、流産や早産、骨盤位(逆子)、産後出血のリスクが高まります。

また、筋腫が胎児の出口となる産道付近に位置し、分娩障害を引き起こす可能性がある場合には帝王切開を検討することもあります。

そのため、妊娠中の子宮筋腫に対しては医師の指示を仰ぎ、保存療法・定期的な経過観察をすることが一般的です。

妊娠中は定期的な検診をきちんと受けて、無理のない生活を心がけるようにしましょう。

まとめ

推定患者数から見てもわかるように、子宮筋腫は女性にとって非常に身近な疾病です。

不妊につながるだけでなく、過多月経によって貧血などの体調不良も引き起こします。

子宮筋腫を発症することの多い30~40代の女性は、仕事が充実している時期でもあり、治療のためにまとまった休みを取りづらいという声もよく耳にします。

しかし、最近の医療では入院期間も短く、早く社会復帰ができる治療法が広くおこなわれるようになっています。

不快な症状は日々の生活にも影響し、気持ちも沈みやすくなりますから、自分の身体をよく知るという意味でも、婦人科系の検診は定期的に受診するようにしましょう。

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参考

*1…令和2年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

*2…5.不妊の原因と検査 – 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)

*3…子宮筋腫|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)

*4…Jacques Donnez, Marie-Madeleine Dolmans. Uterine fibroid management: from the present to the future. Human Reproduction Update, Volume 22, Issue 6, 20 November 2016, Pages 665–686

*5…Panagiotis Bakas M.D, et.al. Estrogen receptor α and β in uterine fibroids: a basis for altered estrogen responsiveness. Fertility and Sterility Volume 90, Issue 5, November 2008, Pages 1878-1885

*6…Maria Luisa Casini et al. Effects of the position of fibroids on fertility  Gynecological Endocrinology volume 22 2006 issue 2

日産婦誌60巻1号研修コーナー (kyorin.co.jp)

産婦人科診療ガイドライン産科編CQ501 

産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編CQ214,215,216

子宮筋腫 | 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 (jsgo.or.jp)

本文/REVIEW_ヒト子宮における幹細胞 (umin.jp)

病気がみえる – チーム医療を担う医療人共通のテキスト (byomie.com)

図解 ただしく知っておきたい 子宮と女性ホルモン|監修 宋美玄|河出書房新社

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